明石と淡路島を結ぶ、高速船が行き交う岩屋漁港のすぐそばに、「寿司割烹 源平」はある。岩屋で60年続く老舗であり、メニューも内装も一新したのは2019年のこと。「田舎の寿司屋からの脱却でした。ここでしか表現できない寿司を握りたい。目指すは、100%淡路島産です」と、3代目・吉田光佑さんはにこやかに話す。
朝、岩屋漁港に出向くのが吉田さんの日課だ。「カネマサ水産」の名仲買人・中西一郎さんから仕入れる地魚は、「店にある生簀で最低1日は泳がせます」。ストレスを取り除いてから捌くのが吉田さんの流儀だ。一方で、中西さんは「1日経ってもへこたれない、魚を目利きしますよ。彼とはもう10年以上の付き合いだから」と、阿吽の呼吸。イサキなら、泳がせた後、塩をしてさらに1日寝かせ、深い旨みを浮かび上がらせる。いっぽう、伝助穴子は骨切りをして皮を引き、温めのシャリで握り、熾った炭をジュッと当てる。
輝くばかりの脂肪をまとい実に香ばしく、丸い味わいのシャリと一体となり喉の奥に消えた。「シャリには、淡路島産ヒノヒカリを使います」。飯尾醸造・富士酢プレミアムなど2種の米酢を配合し、上白糖や少量のみりんで米の甘みを引き出す。そこに、島の釜炊き塩「自凝雫塩」を加え、シャリの輪郭を立たせている。酢の塩梅も程よく食べ飽きないし、何しろ鮮度がいいネタとの相性は言うまでもない。季節にもよるが、マグロ以外はできる限り、淡路島の魚介を。さらには、島内で無農薬栽培を実践する「長慶寺(ちょうけいじ)農園」の、マイクロリーフやハーブを海苔巻きにするなど、柔軟な発想も随所に。
「漁師や仲買人さん、そして生産者…。地元の食を支える方々の、顔が見えるような寿司を握り続けたいです」。先代からスタイルを変えない、寿司に特化した「昼のおまかせにぎり」に、その想いを込める。物腰やわらかな吉田さんの、丁寧な説明を聞きながら味わえば、「淡路島の食」の魅力をより一層、堪能できるに違いない。