鮨屋の暖簾を掲げてまもなく半世紀。洲本市街地にある『金鮓』は、淡路島きっての名店である。凛とした佇まいのアプローチを抜け店に入ると、漆塗りのカウンターがオーラを放つ。天井にはフェラーリの絵画…と、敷居が高そうと感じるが、決してそうではない。板場を仕切るのは、初代・溝口昌孝さんと、娘婿であり2代目の高塚信幸さん。「何度でも気軽に」、「若い層でも楽しめるように」とふたりして口を揃え、おまかせ7000円を死守する。
コースの始まりは、1979年の開業以来の名物「伊勢海老サラダ」だ。島の東部・由良で揚がった伊勢海老を茹で、白味噌ベースのドレッングを絡め、歯応えある身の濃密な甘みを際立たせている。見目麗しい八寸は、鱧の湯引きなど旬を盛り込んで。素材らしさを生かしたボリュームある品々に、口福の連続だ。 続く握りは、「季節にもよるけれど、イクラとマグロ以外は、ほぼ地物やね」とにこやかに話す溝口さん。ネタは開業時から付き合いのある、由良・灘・福良の仲買より。「素材がいいから、熟成させんでも旨いんです」と言いながら、高塚さんが握り始める。半日寝かせた石鯛は、艶やかな身の上品な旨みが後を引く。アシアカエビは湯がき立てで香りと旨みをグッと引き立てるなど、淡路ならではの旬魚がもつ力を丁寧に引き出す。父がネタを切り、義息子が握る。ときにはその逆も。「違和感ないよう、じわーっと世代交代していかんとな」と溝口さんは笑うけれど、球界における名バッテリーを彷彿とさせる“阿吽の呼吸”を、まだまだ見続けていたい。
その昔、旦那衆ばかりだったカウンター席は、時代の移り変わりとともに、女性客やカップルが多くを占めるように。子連れ客にも、心気なく過ごしてもらいたい、と個室も完備する。「回る寿司の大人版のような気軽さで、楽しんでいただけたら」と、にこやかに話す高塚さん。老舗ながら、気取らぬ姿勢をそのままに、懐の深さは増すばかり。