鮨屋の暖簾を掲げてまもなく半世紀。洲本市街地にある『金鮓』は、淡路島きっての名店である。凛とした佇まいのアプローチを抜け店に入ると、漆塗りのカウンターがオーラを放つ。天井にはフェラーリの絵画…と、敷居が高そうと感じるが、決してそうではない。板場を仕切るのは、初代・溝口昌孝さんと、娘婿であり2代目の高塚信幸さん。「何度でも気軽に」、「若い層でも楽しめるように」とふたりして口を揃え、おまかせ7000円を死守する。




1. ケースに入るネタは氷で冷やす。「魚が乾かずしっとりする」と溝口さん。右から平目、ブリ、石鯛、真蛸、ハリイカ、アシアカエビ。すべて由良産 2. 由良漁港で水揚げされたアシアカエビ。締まりが良い肉質で、咀嚼するほどに豊かな甘みが広がる 3. 由良沖で獲れた穴子。時間をかけ昆布とカツオの出汁の旨みを含ませている。口中でとろける、絹のような舌触り 4. 由良産の石鯛。シャリは洲本産「鮎原米」の古米や米酢などを使用。噛めば石鯛の旨みと米の甘みが引き立つ
コースの始まりは、1979年の開業以来の名物「伊勢海老サラダ」だ。島の東部・由良で揚がった伊勢海老を茹で、白味噌ベースのドレッングを絡め、歯応えある身の濃密な甘みを際立たせている。見目麗しい八寸は、鱧の湯引きなど旬を盛り込んで。素材らしさを生かしたボリュームある品々に、口福の連続だ。 続く握りは、「季節にもよるけれど、イクラとマグロ以外は、ほぼ地物やね」とにこやかに話す溝口さん。ネタは開業時から付き合いのある、由良・灘・福良の仲買より。「素材がいいから、熟成させんでも旨いんです」と言いながら、高塚さんが握り始める。半日寝かせた石鯛は、艶やかな身の上品な旨みが後を引く。アシアカエビは湯がき立てで香りと旨みをグッと引き立てるなど、淡路ならではの旬魚がもつ力を丁寧に引き出す。父がネタを切り、義息子が握る。ときにはその逆も。「違和感ないよう、じわーっと世代交代していかんとな」と溝口さんは笑うけれど、球界における名バッテリーを彷彿とさせる“阿吽の呼吸”を、まだまだ見続けていたい。
5. 料理はすべておまかせコース7700円より(料理4品、握り7貫)。伊勢海老サラダは白味噌、辛子、みりん、卵などを加えた特製ドレッシングと共に。 6. 日替わりの八寸は、鮑の辛子酢味噌和え、平目えんがわの梅肉和えほか7種
その昔、旦那衆ばかりだったカウンター席は、時代の移り変わりとともに、女性客やカップルが多くを占めるように。子連れ客にも、心気なく過ごしてもらいたい、と個室も完備する。「回る寿司の大人版のような気軽さで、楽しんでいただけたら」と、にこやかに話す高塚さん。老舗ながら、気取らぬ姿勢をそのままに、懐の深さは増すばかり。