曲がりくねった急な山道を進みゆけば、大きな古民家が見えてくる。イタリア語で『古い家』という意味をもつ『ラ カーサ ヴェッキア』。米村幸起シェフ・梨恵さん夫妻が営む、イタリア料理店だ。
ふたりが淡路島に移住したのは2008年のこと。当時、小さなトラットリアを営んでいたが、「島の食材を知るほどに、この地でしか表現できない味づくりにハマりました」とシェフ。それは、カルボナーラなどイタリアンの定番を作ることではなかった。「淡路島にしかない食の魅力を、コース仕立てで表現したい…」。時を同じくして昭和初期に建てられた古民家に巡り会い、2013年に移転を決意した。
米村シェフの揺るぎない想い。それは「“二十四節気”をテーマにすること」だという。
旧暦をもとに暮らしていた時代。先人たちは、気候の移り変わりや、作物の収穫、漁の時期などを細やかに感じ取り暮らしてきた。その“二十四節気”をイタリアンで提唱する。今や「農」にも携わるシェフにとって、必然だったのかもしれない。
取材で伺った9月中旬は、秋を6つに分けた3番目の節気「白露」。草木に露がつくようになり、朝夜には肌寒さを感じさせる頃とされる。6皿からなる昼のコースには、白露の頃に旬を迎える秋茄子、さらには地元・仮屋漁港揚がりのウオゼなどがお目見え。
コースの序盤、温かい前菜には、洲本「幻種農場」で栽培する翡翠(ひすい)なすをポルペッティ仕立てで。イタリアでは、牛ひき肉にパンやチーズなどを加えて作った肉団子のことをポルペッティと呼ぶが、米村シェフは、古くから日本に伝わる固定種・翡翠なすを主役に、自家製チーズを使い味わいに奥行きを持たせた。
「自家製」といえば、パスタもしかり。自家畑では小麦を栽培する。小麦粉と水、塩だけで作った手打ち麺はムッチリとコシがある。ウオゼからとったダシの凝縮感ある味わいや、秋茄子の旨みが共鳴する。
「どの料理も映えないでしょう」とシェフは苦笑する。だが、素材そのものの力強さが、ストレートに響く味わいの連続。二十四節気を織り成す野菜、さらには肉も魚介も地産に特化できるからこそ「何を食べているのか分からんような料理は作らない」と米村シェフはきっぱり。さらには小麦、野菜、ブドウ、チーズなど加工品に至るまで「出来るだけ、自分たちが手がけたものを使いたい。それこそが、ウチ流のもてなしのカタチだと思っています」。