開放感いっぱいのテーブル席は、窓から穏やかな海を望むオーシャンビュー。淡路島のイーストコースト・洲本にある名イタリアン『リゾレッタ』には、オープン22年目を迎えた今も気持ちいい「新風」が吹き抜けている。
「シェフ・コース」という名のディナーの始まり。目の前にズラリと並んだ前菜に歓声が上がる。サワラの軽い炙りをはじめ、沼島揚がりのアジのマリネ。カボチャのムースを射込んだコルネ、トマトのピュアなエキスを楽しませるブロード…と、全10皿!どの品も手数の多さが印象的で、主となる食材すべてが地産。「淡路島はこんなにも食材が豊富だということを、まずは前菜でお披露目したい」と、オーナーシェフの井壷幸徳さんはにこやかな表情を見せる。2000年に開店した頃は、イタリア食材の入手に困難していたが、「最近では地元農家さんの努力の甲斐もあり、西洋野菜はもちろん、島産のレモンやフィンガーライムも手に入るように」とシェフは嬉しそう。
島ならではの食の豊かさは、続く「イタリアンサラダ」にも見て取れる。毎朝、農家や直売所に出向き仕入れる30種以上の旬野菜が、一皿を覆い尽くす。フレッシュな野菜はもちろん、茹でる、蒸す、揚げる…と異なる調理がなされ、バーニャカウダ・ソースによる味の変化も楽しい。一方で、詰め物パスタ「トルテッリ」には、イチジクの素朴な甘み、自家製フレッシュ・チーズの爽やかな風味を生かしながら、エミリア・ローマーニャ州での修業時代に掴んだ伝統に忠実に。島をこよなく愛し、島食材の魅力を知り尽くしたシェフによる洗練のイタリアン。淡路島に居ながら、ここはイタリアのリゾート地?なんて錯覚すら覚える。
「料理に寄り添うワインも、地元産でまかなえたら」という井壷シェフの夢が今、現実のものに。20年以上もブドウ栽培を手がける小谷雄介さんと一緒に、ブドウ栽培やワイン醸造・販売などを行う『淡路島ワイナリー合同会社』を2022年4月に設立。生まれ故郷・淡路市仁井にあるブドウ畑では、シャルドネ、メルロー、ピノ・ノワールなど5品種を栽培する。岩手にある施設で試験醸造したワインは、「優しい味わいながら、果実味の良さがくっきり」。「合格点でしたね」と井壷シェフ、小谷さんともに自信が持てたようだ。自家醸造に向けて、挑戦は始まったばかり。その醸造所には、カフェやレストランを併設し、ワインに寄り添う料理を提供する予定だという。「醸造家、料理人、同業者…。さらには、若手の育成も含めて、お互いの得意とするところを共有しあい、新しいものを生み出す。それが淡路島の活性に繋がります」と、目を輝かせる井壷シェフ。その瞳の奥では、10年先、さらにその先の淡路島のことを見据えているのだろう。